かく語りき
- 2020-05-18
- 2020-05-18
花盛りの風牌に〜青春編②
有線で、当時流行していたスピッツの曲が流れていたが、その歌詞は少しも頭に入ってこなかった。俺さ、男も女もどっちもイケるんだよな、と目の前のゾーイが雀卓の上に万札を5枚、並べた。 「どーよ。お前、これでひと勝負しねぇか?」「どういう意味?」「お前が勝ったら、この5万はお前のもの。俺が勝ったら、お前は俺の言うことを聞く」「言うことって?」「まぁ、具体的に言うと、お前は俺とすぐそこのホテルに行って、一緒 […]
- 2020-05-15
- 2020-05-15
花盛りの風牌に〜青春編①
名古屋の、美術系予備校に通い始めたのは高校3年の春からだった。と言っても、そもそも美術系への進学を考えたきっかけが、「油絵とか描いていれば女の子にモテるのではないか」というものなのだから、その予備校での日々も、想像通りのものである。 Pという雀荘が予備校のすぐ近くにあり、夏頃には、僕はその雀荘に入り浸るようになった。初めて、そのPという雀荘のドアを開いたのは、五月の中頃だっただろうか。たまたま、パ […]
- 2020-04-13
- 2020-04-13
1970 僕たちの青春
その昔、上野の雀荘で開かれた麻雀大会で、萩原聖人さんと同卓した後、軽く挨拶して、『1970 僕たちの青春』好きでした、と言ったら萩原さんも、あれ、俺も好きなんだよ、と笑っていた。1990年にフジテレビで放送された2時間映画である。舞台となっているのが、僕の生まれ故郷である豊橋の時習館高校だったこともあり、当時、母がVHSに録画していたビデオがあったので、僕自身、高校生になったあたりから何度となく観 […]
- 2020-04-11
- 2020-04-11
花盛りの風牌に(後編)
こういう時の、僕の予感は大抵当たる。 「メメくんって、いつもここで寝泊まりしてるの?」 僕の腕に、頭を乗せたまま博子が言った。 「まぁな。ここで寝て、起きれば誰かしら麻雀の相手がいる。楽なもんだ」「ほっといても、マーくんみたいな相手が来るから?」「分かってんなら、言っとけよ高橋に。おれ相手に、小狡く稼ごうなんて10年早いってよ」「さっきの半荘、私、通してないよ」「嘘つけ。別にそんなことくらいで、ガ […]
- 2020-03-16
- 2020-03-31
花盛りの風牌に(前編)
これと言って、何かそれらしい理由があったわけでもない。なんとなく、生家に帰らないまま半年ほどが過ぎていた。20世紀も終わりが近づいていた、1998年のことである。おそらくは、まだこの国が多少の寛容さを残していた、最後の時代であろう。 僕は20歳で、世間的には大学生という身分に収まっていた。大学のクラブハウス棟にある、演劇部の部室がその頃の僕の寝ぐらだった。部室には、演劇の舞台に使うための平台が敷き […]