CATEGORY

かく語りき

  • 2020-05-21
  • 2020-05-21

冬の蛍

「別にね、不満があるわけじゃないのよ、あなたは才能があるし、それがあなたにとって一番大事なことだってことも知ってるつもり。ただね、ちょっと疲れちゃったの。それだけ。ね、だから、しばらくの間会わないでおきましょ」 半ば一方的にそう宣言されて、部屋を出ていく博子を見送ったのがクリスマスの二ヶ月前のことだった。借りたばかりの2DKのこの部屋は、一人で暮らすには広すぎて、僕はたちまち生活を持て余すことにな […]

  • 2020-05-18
  • 2020-05-18

花盛りの風牌に〜青春編②

有線で、当時流行していたスピッツの曲が流れていたが、その歌詞は少しも頭に入ってこなかった。俺さ、男も女もどっちもイケるんだよな、と目の前のゾーイが雀卓の上に万札を5枚、並べた。 「どーよ。お前、これでひと勝負しねぇか?」「どういう意味?」「お前が勝ったら、この5万はお前のもの。俺が勝ったら、お前は俺の言うことを聞く」「言うことって?」「まぁ、具体的に言うと、お前は俺とすぐそこのホテルに行って、一緒 […]

  • 2020-05-15
  • 2020-05-15

花盛りの風牌に〜青春編①

名古屋の、美術系予備校に通い始めたのは高校3年の春からだった。と言っても、そもそも美術系への進学を考えたきっかけが、「油絵とか描いていれば女の子にモテるのではないか」というものなのだから、その予備校での日々も、想像通りのものである。 Pという雀荘が予備校のすぐ近くにあり、夏頃には、僕はその雀荘に入り浸るようになった。初めて、そのPという雀荘のドアを開いたのは、五月の中頃だっただろうか。たまたま、パ […]

  • 2020-04-13
  • 2020-04-13

1970 僕たちの青春

その昔、上野の雀荘で開かれた麻雀大会で、萩原聖人さんと同卓した後、軽く挨拶して、『1970 僕たちの青春』好きでした、と言ったら萩原さんも、あれ、俺も好きなんだよ、と笑っていた。1990年にフジテレビで放送された2時間映画である。舞台となっているのが、僕の生まれ故郷である豊橋の時習館高校だったこともあり、当時、母がVHSに録画していたビデオがあったので、僕自身、高校生になったあたりから何度となく観 […]

  • 2020-04-11
  • 2020-04-11

花盛りの風牌に(後編)

こういう時の、僕の予感は大抵当たる。 「メメくんって、いつもここで寝泊まりしてるの?」 僕の腕に、頭を乗せたまま博子が言った。 「まぁな。ここで寝て、起きれば誰かしら麻雀の相手がいる。楽なもんだ」「ほっといても、マーくんみたいな相手が来るから?」「分かってんなら、言っとけよ高橋に。おれ相手に、小狡く稼ごうなんて10年早いってよ」「さっきの半荘、私、通してないよ」「嘘つけ。別にそんなことくらいで、ガ […]

  • 2020-03-16
  • 2020-03-31

花盛りの風牌に(前編)

これと言って、何かそれらしい理由があったわけでもない。なんとなく、生家に帰らないまま半年ほどが過ぎていた。20世紀も終わりが近づいていた、1998年のことである。おそらくは、まだこの国が多少の寛容さを残していた、最後の時代であろう。 僕は20歳で、世間的には大学生という身分に収まっていた。大学のクラブハウス棟にある、演劇部の部室がその頃の僕の寝ぐらだった。部室には、演劇の舞台に使うための平台が敷き […]